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「外出自粛」が生んだエンタメ。「オンライン会話劇」あるいは「Zoom演劇」という潮流。

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新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、日本国内では不要不急の外出自粛(海外では外出禁止)が呼びかけられている。そうした状況下で、YouTubeをはじめとする動画プラットフォームにて、クリエイターが自宅から発信し、ユーザーが自宅で楽しめる映像コンテンツが公開される動きが加速している。

 今回の記事では、その中でも「演劇」の分野での動きを紹介する。  

「ウィズコロナの時代」という呼び名も聞こえてくる通り、このような状況が、いつまで続くのかは不透明だ。
そんな中、これから紹介するような動きは、「アフターコロナの時代」が来たとしても残り続けるかどうかはまだわからない。ただ、これまでには存在しなかった新たな潮流であることは確かなので、ひとつの記録として残しておきたい。

なお、他の分野での動きも別の記事でまとめたいと思う。

 

オンライン会話劇という新たな形式との出会い

 そもそも今回この記事を書こうと思ったのは、4月17日(金)から4月19日(日)の3回に渡ってYouTube Liveで上演された『未開の議場 -オンライン版-』を観たからだ。きっかけは、RSSリーダーで見かけたステージナタリーの記事「オンラインで観劇できる」ということに興味を惹かれ、観てみることにした。

なお、千秋楽のアーカイブは以下のURLで5月20日(水)まで公開されている。

(2020/4/23 14:15追記)
『未開の議場 -オンライン版-』プロデューサーの大石晟雄さんよりご指摘いただき、劇団名について修正を行ないました。「オンライン版」はカムヰヤッセンの公演ではなく、キャスト陣の集団名も存在しないとのことでした。お詫びして訂正いたします。

『未開の議場 オンライン版』(脚本・演出:北川大輔/カムヰヤッセン)

上演時間は120分程度

あらすじは以下の通り。

とある街のとある商店街が主催する祭の実行委員会は、いま流行っている病気のため、オンラインで会議を行うことになった。
進行を確認するための和気藹々とした会議となるはずが、不測の事態の発生によって思わぬ方向へすすんでいく。
きたるべき移民時代・外国人労働力の受け入れが現実味を帯びる昨今に、日本の抱える外国人との問題を描き出す二時間一幕の会議劇。


調べたところ、『未開の議場』は2014年初演の舞台

脚本・演出の北川大輔さん曰く「あ、これなら使えるんじゃないか」ということで、WEB会議(Zoom)上での物語に設定を変えて上演する運びになったとのこと。元々は劇団「カムヰヤッセン」の舞台だが、「オンライン版」については、今回の企画に賛同する様々な劇団の俳優陣が集結した特別な公演となっている。

観劇した結果、形式自体の新鮮さはもちろん、物語も非常に面白かった

Zoom演劇は演劇といえるか」みたいな議論があることは知っているが、そのあたりのことは脇に置いておいて、単純に面白いと感じたのだ。

会社の会議とはまた違う、
価値観がバラバラな人間同士の話し合い。

人と人との距離感。

コミュニケーション。

偏見。

他者と共存するということ。

わかりあえないこと、それをどうとらえるか。

そんなキーワードが、観劇後もぐるぐる頭をめぐる。

こうしたテーマに関心がある方は、ぜひ一度観てみてほしい

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『未開の議場 -オンライン版-』場面カット

最後まで多様な意見が飛び交い、ありがちな大団円を迎えることはない。でも、それがリアルだった。

ただ、一見わかりやすいオチ(あるべき姿)になっていないようで、将来的にそこに繋がりそうな光明が見える結末となっている。

詳しい感想は別の記事にするので、本作への言及は一旦ここまでにする。

「オンライン会話劇/Zoom演劇」ならではの魅力

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 ① リアルタイムで繰り広げられる演劇を自宅から観られる

これまでも自宅から、テレビやYouTubeなどで過去の演劇を観ることはできたが、それはあくまで「その劇場にいた人に向けたお芝居」を傍観者として後から観る、というものだった。

その一方で生配信で上演される「オンライン会話劇/Zoom演劇」は、同じ時間を共有しているからこそ、「自分たちに向けて、リアルタイムで物語が紡がれている」という体験をすることができる。

また、オンライン会話劇という設定上、時間的な切れ目(場面変更)がないことも、「リアルタイムで起きていることを実際に観ている」という感覚を強化している。

これはシンプルにこれまでにない体験で、今後需要が増えていく「自宅でのエンタメ」の中で、ひとつの地位を確立する可能性を感じた。

 ② 登場人物の表情や雰囲気をしっかり観られる。

画面のフォーマットが「WEB会議ツールの通話画面」に固定されるため、必然的に登場人物全員の顔がアップで映し出される。

つまり、従来の演劇では(特に舞台から遠い席からでは)認識するのが難しかった登場人物の表情の微細な変化をしっかりと観ることができるのだ。しかも、全員の画面が平等に映し出されるので、従来の演劇なら視界に入らなかった登場人物(映画ならば画角に入らない登場人物、といえばわかりやすいかもしれない)の表情に目が向くこともあったりする。

そうした点で、観客がキャッチできる情報量が増え、物語に奥行きが増すのも「オンライン会話劇/Zoom演劇」という形式ならではの魅力だと感じた。

「Zoom演劇」の先駆者たち

この「オンライン会話劇」または「Zoom演劇」というコンテンツは、今後も増えていくだろう。

というのも、『未開の議場 -オンライン版-』のほかにも既に上演、告知を行なっている劇団が複数あるからだ。
以下に、僕が観測しているものを列挙しておく。

連作短編通話劇シリーズ『窓辺』(劇団ロロ) 

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離れた土地で暮らす人たちの、ある一晩のビデオ電話を切り取った連作短編通話劇。第1話は、4/19(日),4/22(水),4/25(土)に計6回、YouTube Live上で上演される。
詳しくはこちら / 配信ページはこちら

 

おそらく最速。"Zoom演劇"に特化した「劇団テレワーク」

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コンテンツスタジオ「CHOCOLATE Inc.」は4月5日、企画から稽古・公演まで全てをオンライン上のZoomで行なう「劇団テレワーク」を旗揚げした。

ツイートの動画は、ワークショップでの作品とのこと。

3月末に「テレワーク演劇ができそうなので考えてみる会議」が行なわれ、4/2(木)にワークショップ型の公開オーディションを開催。4/5(日)に第0回公演、4/19(日)に第1回公演を上演。並行して即興公演も3回こなしているというから、いま一番「Zoom演劇」の経験値が高く、試行錯誤を重ねているのは、この劇団かもしれない。配信媒体はYouTube Live。
詳しくはこちら / 配信ページはこちら

もうひとつのフルリモート劇団「劇団ノーミーツ」

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"NO密で濃密なひとときを"をテーマにしたフルリモート劇団「劇団ノーミーツ」も、4月9日(木)に始動した。

こちらは今のところ、生ではなく事前に撮影した3分未満の映像を公開する形式を取っているようだ。配信媒体はTwitterまたはYouTube。
詳しくはこちら / 配信ページはこちら

『のぞきみカフェ』YouTube支店(きださおり/SCRAP)


リアル脱出ゲームを手掛ける株式会社SCRAPのきださおりさん(元・東京ミステリーサーカス総支配人)が発表した新たな企画。

元となっているのは、2019年の表参道のカフェでのイベントで、店内で居合わせた「知らない誰か(登場人物)」の世界を"のぞきみ"できる、という試みだ。
日常生活と同様、カフェで隣の席から断片的に聞こえてくる会話から、その人が抱える悩みを推測し、場合によっては(おせっかいにも)口を出したりすることもできる…そんなイベントだったようで、今回はそれを「Zoomでの会話を"のぞきみ"する」という形式に変更したものだ。配信媒体はYouTube Live。

ゲーム業界にいる身としては、ARG(代替現実ゲーム)的な観点でも興味深いし、先に触れた「Zoom演劇の演劇性」みたいな問題へのひとつの補助線になるのではないか、という観点でも注目している。  
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『あの子と旅行行きたくない。』(月刊「根本宗子」)


根本宗子さん主宰の劇団による2014年の"バー公演"が、"リモート芝居"としてリメイク。全編ワンカットで収録された映像コンテンツとなっており、こちらは動画販売サイト「filmuy」にて、有料(税込1,000円)のレンタル方式で提供されている。
詳しくはこちら / 購入ページはこちら 

(2020/4/23 8:00追記)
Twitter上で新たに見かけたものがあったので追記する。
以下の2劇団は、Zoom上で観劇する形式を取っているようだ。

【追記】リモート劇団「劇団Zooooom!」

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旗揚げ公演は4月15日(水)。1st公演を4月23日(木)、2nd公演を4月24日(金)に控えており、Peatixなどで有料チケットを販売している。
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【追記】Zoom劇場「オンラインノミ」

お笑い芸人の大和一孝さん(スパローズ)が企画・プロデュースする生演劇。4月26日(日)に公演を控えており、有料チケットを販売中。
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(2020/4/25 19:00追記)
テレビや映画でお馴染みの俳優陣による劇団が結成されたので追記する。

オーバーグラウンドからも上がった狼煙

4月24日(金)、俳優の賀来賢人さんが自身のTwitterを更新し、劇団を結成し、オンラインで公演を行なうことを発表した。

『肌の記録』(劇団年一 / 賀来賢人ほか)

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劇団に名を連ねる俳優は、柄本時生さん、岡田将生さん、落合モトキさん、賀来賢人さん(五十音順)の四名。脚本・演出は、この春に放映されたテレビドラマ『死にたい夜にかぎって』で賀来さんとタッグを組んだ加藤拓也さん。俳優陣はいずれも1989年~1990年生まれの(僕にとっても)同世代だ。

配信時期は5月上旬で、現在は会議と稽古を重ねているといい、「オールリモートでビデオ通話を使った映像のような演劇のような、新しい作品を作」るとしている。あらすじは以下の通り。

大体今から100年くらいあと、ある年から教育や仕事はオールリモートに移行、外出は基本禁止、仕事が無い人はしなくてもよく、人との関わり方は変わってしまい、子供達は友達とオンライン以外で会った事が無い世の中になりました。
人と触れ合うような文化、娯楽、仕事はすっかり滅びてしまって、そんな時代に産まれた幼馴染みの、ときお、けんと、まさき、もときは暇で暇で仕方がないです。
『生きているだけで楽しくて幸せ』なんてつまらないと思う4人は暇で仕方ない生きるだけの日々を楽しくする為に、ぼんやり昔の文化を想像と勘で復活させてみたりしちゃったりします。


 ちなみに、脚本・演出の加藤さんは自身が代表をつとめる「劇団た組」でもインターネット公演を行なっている。

『要、不急、無意味(フィクション)』(劇団た組)

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こちらは4月18日(土)~19日(日)に、Skypeのグループ通話機能を使用して上演された。各回先着40名の事前予約制で、予約した観客にはSkype通話用のリンクURLがメールにて共有される方式となっていた。
詳しくはこちら

 

「Zoom演劇」のゆくえ。課題や議論など。

これは外出自粛の状況下における、他の分野でのオンライン化においても同じことが言えるが、生のエンタメも編集のエンタメも、どちらも制作環境の変化を余儀なくされていて、提供方法および収益化の方法もまた別の形を取らざるをえなくなっている。  

演劇性に関する議論

演劇においては、制作環境=提供方法であり、舞台上の役者と観客が「生」で「同じ空間」にいることが前提とされている。それにより、先に触れた通り、「Zoom演劇は演劇なのか」といった議論が生まれているのだ。

たとえば、最後に紹介した『あの子と旅行行きたくない。』の根本宗子さんは以下のように述べている。

やはり演劇はお客さんと同じ空間で生で観てもらうもの、というかそれだけが演劇の決まり事で、あとはなんでもありなのが「演劇」だと思って私は作品を作ってきたので、今その唯一の決まりが実現できない状況で…(中略)…これは演劇?映画?ドラマ?なに?って聞かれると、私の中で今までのカテゴリーに入らないものなのです。 

 
また、劇団扉座主宰の横内謙介さんはブログにこう記している。

このネット社会、違う表現手段もあるだろう。そこに変換してゆけと言う意見は正しいのかもしれない。でも、物心ついて以来、それを愛して40年やって来た。ネット演劇の可能性は次の世代の人たちに託したい


正直なところ、僕は「演劇の何たるか」を語れるほど演劇を観てきていないので、この議論に参加するような立場にはない。

ただ、上記のような演劇人たちのメッセージを読んでいると、演劇を生業とする人たちの中でも意見は分かれているし、時代の変化に合わせて、演劇の形も変わっていくこともあるのだろうなと思う

この記事で紹介した中でいうと、劇団テレワークが挑戦している即興公演では「YouTubeのコメント欄が役者への演出指示につながる」という試みが行なわれていたり、『のぞきみカフェ』でも観客が登場人物にアクションを起こせる余地が設けられている。そうした工夫によって「新しい時代の演劇性」みたいなものが生み出されていくなら、僕はそちらに注目していきたい。

というか、多くのひとは演劇評論家でも何でもないのだから、自分が楽しいと思えるなら、何も考えずに楽しめばいいと思っている。

そこには、今まで存在しなかった、新たなエンタメが広がっている。それだけなのだ。

制作環境=自宅であることの制約

こちらには、一般の観客目線でも課題がある。

外出自粛の状況下では、「オンライン会話劇/Zoom演劇」はおのずと「自宅と自宅を繋ぐオンライン会話/会議」というシチュエーションに限られる。背景の造形物を工夫することで「オフィス」にしたりすることはできるだろうが、どれだけ拡張できたとしても「屋内」というシチュエーションを脱するのは難しいだろう。

バーチャルな背景を駆使して屋外に見立てることもできるだろうが、それはそれで「屋外から自撮りしている人と長時間オンラインで会話する」というシチュエーションに違和感が生じる。

以上のことから、今はまだ問題ないだろうが、もう少しするとシチュエーションのマンネリ化が起こることが予想される。

(とはいえ、長い目で見れば「オンライン会話劇」というフォーマット自体は、今後もワンシチュエーションものの一つのジャンルとして確立されるんじゃなかろうかとも思っている)

もし画面構成を自由にいじれるようになれば(画面を見る登場人物の顔が平等に映し出される会議画面ではなくなるなら)、複数のカメラの映像がスイッチングされながらお茶の間に届けられていた「生放送のドラマやコント」のようなやり方も出てくるかもしれない。
ただその場合、カメラが映る範囲を「自宅ではないどこかにいる自分」に見せる作業が俳優一人ひとりに必要なるので、美術・衣装・メイクなどの部分で限界がきそうな気がしている。あと、対面していないのに対面しているテイで演技をする必要がある、という点でも俳優の技量が求められそうだ。
 

マネタイズ面での課題

この記事で紹介した作品の多くは、無料で配信・公開されている。

観る側にとっては、無料で上質なコンテンツに触れられるのは喜ばしいことだし、作る側にとっても「ファン獲得の間口が広がる」という利点もあるが、当然、作り手たちが生活していくためには、収益が上がり、対価を得られる仕組みが必要となってくる。

とはいえ、そもそもオンラインで提供するコンテンツは、ECとの相性がとてもよいので、僕はこの課題はすぐに解決するのではないかと思っている。

たとえば、最初に紹介した『未開の議場 オンライン版』も無料で配信・公開されてはいるものの、投げ銭サービスでのカンパを呼び掛けていたり、台本や設定資料をダウンロード販売する物販コーナーを設けている(僕も設定資料を購入した)。ほかには、映像作品として動画を販売したり、配信媒体をZoomに限定することで、オンラインチケットを視聴権利(ID/パスワード)と紐づけて販売している劇団もあった。

「無料公開&投げ銭」のあり方でいうと、劇団側が推奨価格(従来のチケット価格)を設定して、開演時にアナウンスし、その場で観客に決済してもらうような形を標準にしてしまってもよいのでは、と思う。

劇団のファンは推奨価格を最低ラインとして支払うだろうし、一見さんも終演後に価値を感じたなら、チケット代を後払いするような感覚で支払ってくれるだろう(楽観的すぎるかもしれないが)。


僕自身は今回「これまで知らなかった劇団の作品を無料で観て、ファンになり、お金も支払う」という体験をした。
そして、いつか世の中が落ち着いたら、劇場に行きたいとも思っている。

これも今まではなかったひとつの演劇と観客のあり方なのではないだろうか。
そんなことを考えて、今回の記事を終わりたいと思う。

 

執筆予定の記事

>>「わかりあえないことから。オンライン会話劇「未開の議場」で感じたこと。」(作成中)
>>「「外出自粛」が生んだエンタメ② 音楽・映画/ドラマ・バラエティ番組」(作成中)

ではでは。